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小さい牛追い

 草がぐんぐん伸び始める頃になるとこの本を読みたくなります。オーラやエイナールが初めての牛追いを前に心をはずませていた気持ちがわかるからでしょうか。

 ノルウェーのランゲリュード農場に住む、両親と四人きょうだいの物語です。オーラ10歳、エイナール8歳、インゲリド7歳、マルタ5歳。上の二人が男の子、下の二人が女の子です。一家は村じゅうの牛やヤギを預かり、山の上の牧場でひと夏を過ごします。毎朝牛たちをおいしい草のある場所へ連れて行き、日暮れには一匹残らず連れて帰るのが牛追いの仕事。それを8歳や10歳の子どもが一人でこなし、お駄賃まで稼ぐのですから、当時の生活ぶりや子どもたちのたくましさに驚かされます。

 今年、オーラとエイナールは初めて牛追いをまかされ、はずむ気持ちを抑えきれません。六月初め、いよいよ山の上の牧場へ行く日がやってきました。まだ皆が寝ている早朝とび起きた二人は、外へ牛たちを見に行きます。朝露に濡れた草も二人の心もキラキラ光っています。それからの20キロの山道。20匹の牛、それにヤギたち、小さい妹たちと飼っている子ブタも連れて大騒ぎの大移動です。ひと夏男の子たちは一日交代で牛を追い、牧場の仕事をする両親を助けて実によく働きます。

小さい牛追い

  この本を読んだ人たちの多くはエイナールの魅力にはまります。エイナールは本当に天真爛漫。ありのままにしているだけで誰からも愛される子です。一方長男のオーラは一人で本を読むのが好きな子。自分よりエイナールの方が、家族からも周りの人たちからも好かれていると感じています。素直になれないオーラ。いらいらしてエイナールに意地悪してしまうこともあります。エイナールが牛追いから帰って来なかった日。必死に探すオーラ。「もし神さまが、こんどだけ、エイナールをかえしてくだされば、ぼくは、もうけっして―けっして―」祈りながら泣き出すオーラの気持ちが痛いほどに伝わり、何度も読み返した場面です。自分の中のいろいろな感情に悩むオーラも愛おしい子だと思います。

 自然の中でよく働きよく遊び、日々成長していくきょうだい。子どもたちを温かく見守る両親の存在があればこそです。愛情豊かなお母さんは、作者マリー・ハムズンその人だと思えてきます。

 秋から冬にかけてのお話は、続編『牛追いの冬』に書かれています。末妹マルタが肺炎になったこと、『小さい牛追い』にも登場した少女インゲルとオーラのその後、そしてインゲルの身には大きな出来事が起こります。こちらもおすすめです。

(『小さい牛追い』マリー・ハムズン作 石井桃子訳 岩波少年文庫 小学4・5年以上)

         児童文学愛好家 天野和子