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 児童文学は子どもが読むものと思っていませんか?児童 文学は決して子どもたちだけのものではありません。本当 に良質の児童文学は、子どもはもちろん、大人が読んでも 十分におもしろい のです。子どもの頃に好きだった物語を 読み返してみるのも、人生の楽しみのひとつだと思いま す。親子で同じ本を読むのも楽しいでしょう。ここでは、おすすめの名作児童文学を紹介していきます。

『飛ぶ教室』はドイツの寄宿学校を舞台にした物語です。 長い前書きがあって(しかも二つ)、なかなか話が始まら ないなと思うかもし れませんが、そこは心配ご無用。一章 からはどんどんお話が動きだして、目が離せなくなりま す。

 主役の5人の少年たちは、15歳くらいでしょうか。詩の 才能をもつヨーナタン(愛称ジョニー)には両親がいません。いつも腹をすかしているボクサー志望のマティアス (マッツ)は、友だち思い。裕福な家に生まれたウーリ は、臆病な自分を責めています。孤独な心をもつクールな ゼバスティアーン。そして秀才のマルティンは、家の貧しさ に人知れず苦労しています。この5人の少年が、実業学校 生とはりあったり、それぞれの悩みに向き合ったりしなが ら、日々成長していく姿がいきい きとえがかれています。 

 『飛ぶ教室』は私が小学五年生の頃一番好きだった本です。当時のダイ ジェスト版が実家に残っていたので読み返しました。 するとたちまち時を飛び越えていました。覚えていたのです。挿し絵も、登場人物の名前も、忘れられない場面も。子どもの頃に心に 沁みこんだ物語は、50年を経てもちゃんと自分の中に残っていま した。マティアスが実業学校の生徒と一騎打ちをするところ。ウーリが勇気を見せようと思いきった行動に出る場面。そしてみんながクリスマス休暇の帰省列車に乗る時に、旅費が届かなかったマルティンが流す大粒の涙。五年生の自分が一緒に流した涙が、昨日のよう に思い出されました。その後流した、今度は温かい涙のことも。

 『飛ぶ教室』には重要な二人の大人も登場します。正義さんと呼ばれる先生と、生徒たちの相談相手である禁煙さんと呼ばれる男性 です。この二人の絆がもう一つの物語となっています。子どもの心をわかってくれる大人の存在がいかに大切かを思います。

 ケストナーがこの物語を書いたのは1933年。その後ナチスによって出版を禁じられたり本を焼かれたりもし ましたが、正義の心 を持ち続けた人です。前書きを読み直すと、「子どもだって不運や 悲しい ことに合う」「どうかくじけない 心をもってくれ」と語りかけ るケストナーの声が聞こえてくるようです。

『飛ぶ教室』  エーリヒ・ケストナー作  岩波少年文庫 小学4・5年から)

児童文学愛好家 天野和子