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あらしの前/あらしのあと

 この本を手に取ったきっかけは、斎藤惇夫さんの著書『子ども、本、祈り』を読んだことです。子どもの本の編集に長く携わられ、ご自身も『冒険者たち』(アニメや舞台「ガンバの冒険」の原作としても有名)などを書かれた斎藤さんが、この本を「生きる指針となった物語」と紹介されていたのです。斎藤さんのおかげで、今まで読まなかったことが悔しくなるほど良い本と出合うことができました。

 オランダの静かな村で暮らすオールト一家の、第二次世界大戦をはさむ数年間の物語です。お父さんファン・オールトは親切なお医者さん。やさしく芯の強いお母さん。個性豊かな六人の子どもたち。長女ミープはしっかり者で、社会事業学校で学んでいます。音楽好きでピアノの練習に励む長男ヤープ。次男ヤンは勉強嫌いで心配をかけていますが、あることをきっかけに父と同じ医者をこころざします。次女ルトは感受性豊かな少女。はにかみやですが魅力的で、私の一番好きな登場人物です。それにいたずら盛りの三男ピムと、生まれたばかりの赤ちゃんアンネ。

 幸せにくらしていたオールト一家のもとに、ドイツから逃れてきたユダヤ人少年ヴェルナーが加わります。やがて、ここなら安全と思われた静かな村にも、戦争という「あらし」がおそいかかります。ミープは怪我を負いながらも夜通し車を走らせ、病気療養中のルトを家に連れ戻します。そして休む間もなく、今度はヴェルナーをナチスから逃がすために、また車を走らせるのです。

 オランダの作家ヨングさん自身も、ナチス侵入の数日前にオランダを離れて命をつなぎ、その後アメリカに渡って作品を発表した人です。

 『あらしのあと』では、ナチス占領から六年後が描かれます。もう戦争は終わっていますが、子どもたちにはそれぞれ戦争の影響が色濃く残ります。ヤープは、ヤンは、ルトは、どうしているでしょう?ミープは無事だったのでしょうか?ヴェルナーは生きているでしょうか?ここに結果だけ書いても伝えきれないものが多すぎるので、ぜひこの2冊を読んでみてください。確かに言えることは、オールト夫妻も、子どもたちも、そしてヴェルナーも、あらしに翻弄されながら一生懸命生きたということです。

 ウクライナやガザの人たちのことを思う時、日本でも戦争があったことを思う時、この物語がよみがえってきます。今こそ読んでほしい本です。

あらしの前/あらしのあと

『あらしの前』『あらしのあと』ドラ・ド・ヨング作 吉野源三郎訳 岩波少年文庫 小学5・6年以上

児童文学愛好家 天野和子