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茗荷宿 茗荷料理を食べさせてお客に忘れさせて荷物をせしめようと画策する宿屋夫婦
茗荷宿 みょうがやど

 

 「みょうがを食べるともの忘れする」今では、そんな言いならわしを知っている子どももいないかもしれませんが、私が子どものころは、みょうがが食卓に登場すると合い言葉のように母親が言っていました。あの独特な香りがどうも苦手で、もの忘れする上にこんな臭い食べ物をなぜ食べるのかと不思議でしょうがありませんでした。今では、そうめんでも酢の物でも刻んだみょうがが乗っているとそれだけで食欲も気分も上がりますが。

茗荷の由来

 お釈迦様の弟子で、もの忘れ名人の槃特(はんどく)さんがこのいわれの由来です。自分の名前すら忘れるので名荷(みょうが)つまり名札をつけさせてもそのことさえ忘れるという徹底ぶり。槃特さんが亡くなるとお墓の周りにある草がたくさん生えてきました。故人にちなんで「茗荷(みょうが)」と名付けられ、先のいわれが誕生したというわけです。植物にとっては明らかに不当な言いがかりですが、あの香りとエピソードがしっくりきたものか、そこはかとないユーモアを湛えて今に伝わっています。

 落語の「茗荷宿」は、このいわれを使ったお話です。宿屋の夫婦が一計を案じ、特産の茗荷を様々に料理して客に出し、忘れ物をせしめようとします。高尾小学校の女流落語家青葉亭ふらわーさんとそれを受け継いだ夕焼けさんがこの話を得意にしていて、「茗荷ごはんに茗荷の酢の物、茗荷汁に茗荷の天ぷら…」と並べていき、はては「茗荷プリンに茗荷ジェラート」と自分好みに創作して笑いを誘います。 

 さて、果たして宿屋夫婦の思惑通りにいったのか、これはこの話の落ちにあたり、あざやかなことこの上ないのでここに記すは野暮というもの、気になる方は「にこにこ寄席」に行かれるなり本で調べるなりしていただければと思います。

川端誠落語絵本

 この話はめったに高座にかかりません。私も高座では一度も聞いたことがありません。小学生のころ、テレビで一度見たきりです。もう十年以上前になりますが、絵本作家の川端誠さんと話したときのことです。話題が子どもたちに人気の落語絵本シリーズに及んだので、「次の作品は?」と尋ねると、「茗荷宿にしようかと思っています。」と言われました。私がとっさに落ちを語りますと川端さんは目を丸くして、「この話を知っている人に初めて会いました。」とおっしゃいました。高座で聞く機会などまずないし、自分はテレビで一度見たきりだ、とも。川端さんと私は同世代です。話を聞くと、どうも同じ番組を見て、同じように落ちの見事さに魅了され、ずっと記憶にとどめいたということのようでした。

 消えたところで誰も何も思わない他愛のないお話かもしれません。しかし、それを何十年も温め続け、伝える値打ちのある話として絵本に残した川端さんの思いを私はとても尊いと思います。そして「にこにこ寄席」という高座にかけて、お客様に伝え続けている高尾小の子どもたちもまた、文化を支えるとても尊い活動をしていると思うのです。

 ちなみに、川端誠さんの『みょうがやど』は、シリーズ15作目として2012年クレヨンハウスから出版されています。        

                                                                           文 宮森健次 

もの忘れ名人 槃特 はんどく お墓からにみょうががたくさん生えてきた