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まわりねこ ねこ とら りゅう ねずみ くも

 これも高座で聞いたことがありません。なぞなぞをつないだような、よく言えばかわいらしい、悪く言えば単純極まりない話なので、今の落語家が取り上げる気にならないのもわかる気がします。

 ネコが生まれたので名前を付けようとします。どうせなら強い名前にしようと相談すると、「強いといったらトラだ」。そこから無限ループのなぞなぞ開始です。「トラより強いのは?」

「リュウ」、「リュウより強いのは?」、「風」、「風より強いのは?」…

 調べてみると、その昔高座にかかっていたときは、弁慶とか義経などが登場しています。落語が隆盛を誇った明治大正期で強いものの代名詞と言えばその二人になるのでしょうね。もちろん、今の子どもたちにその二人の名前を言ってもピンときません。小佐田定雄さんは『5分で落語の読み聞かせ』で楽しい工夫をしています。相談相手を日本各地の親戚にして、それぞれのお国言葉で強い名前の提案をさせたのです。「そら強いいうたらトラやろ、なんちゅうたかて、タイガースは日本一やさかいな」と大阪のおじさんに言わせたかと思うと、「リュウだぎゃー」と名古屋のおばさんに反論させるという具合です。

方言で大受け

 この話を高尾小「にこにこ寄席」で最初に演じたのは、三年生の女子児童でした。当時は、三年生と四年生の複式学級の子どもたちだけで落語活動をしていました。始めたばっかりの彼女にとって、話を覚えることはかなり荷が重かったようです。苦手意識もあったかもしれません。勧めた話をなかなか覚えようとせず、一度叱ったことがあります。どちらかといえばいつもニコニコ朗らかにしている彼女がその時ばかりはしゃくり上げて泣き、「怒らなくてもいいじゃないですか」と抗議しました。「自分だってがんばっているのに先生は分かってくれない」そんな悔しい思いを懸命にこらえていることにようやく気がつきましたが後の祭りでした。その後どう慰めたか、または何も言えなかったのかよく覚えていませんが、気分一新をはかる意味で与えたのが「まわりねこ」でした。なぞなぞの繰り返しですから覚えやすくもあったのでしょう。表情もすっかり以前のにこやかさを取り戻しました。ただ方言には手こずりました。大阪、名古屋、福岡、北海道、高知それぞれの独特な言葉やイントネーションは、そう簡単に表現できません。そこで私は、クライマックス部分を「出雲のおばば」に代え、出雲弁にしてみました。モデルは、母や祖母です。

「はあ?、ネコの名前に壁だことのだらつけな(ばかばかしい)。なんぼがんじょ(頑丈)な壁だけんて、ネズン(ネズミ)が出てきて噛んさがったら(噛みでもしたら)、ひとたまあ(ひとたまり)もないがの(ないじゃないか)…(まだまだ続く)」

 彼女もこれには面白がって、ついにできあがり。これはどの会場でも想像以上にドッカンドッカン受けて、彼女の代表作になりました。今も後輩たちが受け継いでいます。

 この「まわりねこ」は想像以上の効果をもたらしました。彼女はすっかり自信を付けて、その後は、「反魂香」や「牛ほめ」など、言い立て(一連の決まった長台詞)が妙味の落語ネタを得意とするようになるのです。「どうやって覚えてるの」と感心して聞いてみましたが、「えへっ」と笑うばかりで教えてくれませんでした。